レース撮影とNDフィルターの関係ってなんだろう

先日「レース撮影ではNDフィルターが良いと聞くが、その使い方がわからない」というコメントをいただいたので、私の理解している範囲内で説明したいと思います。(有識者の皆さん、間違っている点やここをこうしたほうがいい!というのがあればTwitterやコメント欄にてご意見いただけるととてもありがたいです。)

ND4_6741.jpg

写真左のものがNDフィルター(ND8)になります。並べてあるのが一般的なレンズプロテクター。写真で見ると黒く見えますが、ちゃんと透けています。超望遠単焦点レンズや出目金広角レンズなどの一部のレンズを除いて、フィルター用のねじが切ってあるレンズに取り付けることができます。理由は後述しますが、レースではND4かND8を使用することが多いです。

1:NDフィルターと適正露出

ここでは適正露出をF8,ISO200,1/800sec1/800secと仮定します。
※1:適正露出:明るすぎず、暗すぎずちょうどいい明るさで写ってる状態。(オートモードなどはこの状態に限りなく近いです)
※2:段:カメラの明るさを調整するために使う用語。わからない場合は記事中の段についてはすっ飛ばしても大丈夫です。

NDフィルターとはニュートラル・デンシティー(Neutral Density)フィルターの略で、直訳すると「中立的な濃度のフィルター」ということになります。(ケンコー・トキナーHPより)中立的な濃度ってなんやねんって話ですが、おいておきます。NDフィルターの役割としては透過する光の量を減らすことにあります。しかし、前述のF8,ISO200,1/800sec1/800secの設定のままだと透過光の量が減ってしまい写真が暗くなってしまいます。それを補正するには

1:絞りを開く
2:ISO感度を上げる
3:シャッタースピードを下げる

のどれかになります。1はポートレイトなどを撮る人がよく使う方法ですが、レース撮影の場合は3の効果を狙って仕様することが多いです。(ノイズが増えるので2の効果を狙って撮る人はいませんが、適正露出を得るためにISO感度を上げることもあります)

例えばND2(通過する光の量が半分になる)フィルターを使用した場合は

1:絞りを開く→F8から一段明るいF5.6にする(F5.6,ISO200,1/800sec)
2:ISO感度を挙げる→ISO感度を倍のISO400にする(F8,ISO400,1/800sec)
3:シャッタースピードを下げる→シャッタースピードを半分の1/400secにする(F8,ISO200,1/400sec)

といった感じです。段の表記は難しいので割愛…詳しくは「絞り 段」などで調べると出てくると思います。


2:普通に撮影する分には実はいらない!?

流し撮りにNDフィルターは必須!と書かれる場合が多い(私もそう書いています)が、実はなくても案外なんとかなります。

DSC_2371
例えばこの写真。車両の全体がブレることなくしっかりと収められています。しかし、100km/h以上のハイスピードで走行しているのにも関わらずまるで止まっているように見えますね。1/1250secという高速シャッターを切っているためにそうなってしまっています。もちろん、どんな車が走っていたかを完璧に収めるためには必要な写真ですが、動きのない退屈な写真とも見れますね。

では、動きを出すためにはどうしたらよいでしょうか。それはとても簡単な話で「シャッタースピードを下げる」です。先ほどシャッタースピードを下げるという話が出たためここでNDフィルターの出番かと思われるかもしれませんが、まだ登場しません。

DSC_4542
車はピタッと静止していますがホイールが回転し、背景や路面、縁石がブレて疾走感が生まれました。上の写真と同じ日に撮影した写真ですが、こちらは1/160secのシャッタースピードです。このくらいのシャッタースピードであれば車両のほとんどの部分は大きくブレることがないので車両写真としても非常に見栄えが良いです。

記事中によく登場する背景はブレているのに車はぶれていない写真の撮り方を「流し撮り」といいます。車の動きに合わせてカメラを振って撮影しています。

以下はややこしい計算なので飛ばしてオッケーです
同じ日なので適正露出がおおむね同じと仮定した場合、
1枚目:F10,1/1250sec,ISO400(ただし現像時に1/3段暗くしている)
2枚目:F13,1/160sec、ISO100
絞りで2/3段暗く、シャッタースピードで3段明るく、ISO感度で2段暗くしています。-2/3+3-2-1/3=0となりカメラの設定が全く異なっているのにも関わらず外の明るさは変わっていないことがわかります。

ややこしい計算おわり

カメラ側の設定だけでシャッタースピードを落とすことに成功しており、暗くするフィルターであるNDフィルターをわざわざ使用する必要がありません。

それじゃー一体NDフィルターはどこに出てくるんだ…

3:カメラ&レンズの物理的な限界


無限に絞りを絞ることができ、無限にISO感度を下げることができれば無限にシャッタースピードを落とすことができます。ところが、現実とはとても非情でそんなことはできません。上の作例で使用しているD7200の一番低いISO感度は100であり、すでに限界を迎えていることがわかります。でも、絞りを絞れば大丈夫。さらに上の作例で使用しているレンズは最大でF40まで絞れるからまだまだ余裕!と思われるかもしれません。といっても、3と1/3段余裕があるだけの話なので、上の作例の場合はどんなに頑張っても1/15までしかシャッタースピードを落とすことができません。すべてのレンズがF40まで絞れるわけではないので、実際はそこまで下げることができないと考えたほうが良いと思います。(私が現在使用している200-500VRはF32まで絞れます)

絞りを絞ると非常に厄介な別の問題が生じてきます。


4:見覚えのないものが写っちゃう!?

その1:サーキットのフェンス
D72_8788
この作例、なんか不自然な筋が写り込んでいます。一体何かというとサーキットのフェンスです。人間の脳というのは大変よくできていまして、肉眼で見る分にはこのフェンスというのを完全に消してくれるのですが、カメラは正直なのでフェンスもしっかりと写してくれます。

作例のようにF11で写ってくるフェンスはあんまりないんですが、F16やF22くらいまで絞るとよく映ってきます。

俺はフェンスの影響を受けないところ(観客席の上側など)から撮るからフェンスは関係ないぜ!絞りまくるぜ!と思う方もいるかもしれませんが、フェンスよりももっと恐ろしい別の写り込むものがあるのです…

その2:センサーゴミ
DSC_1339
ぱっと見は普通の流し撮りですが、よく見るとライダーのヘルメット付近に黒いつぶつぶがいっぱい見えると思います。(Flickrで拡大してみてもらうわかりやすいです)これがレンズ交換式デジカメのにっくき宿敵、センサーゴミです。

※センサーゴミ:撮像素子上にくっついた汚れ。ホコリなどの外的要因がほとんどであるものの、稀にシャッターユニットから出たグリスが付着する場合がある。静電気でくっついてることが多いので取れにくい。

この二つ、どちらも「被写界深度」が影響しています。絞ることで被写界深度が深くなり、写り込みやすくなるんですね。それじゃー、写り込みにくくするには?絞りを開いて被写界深度を浅くすればよいのです。でも、絞りを開くとシャッタースピードを落とすことが困難になります。ISO感度はもう落とせない!それじゃーどうしたものか…ようやく、””アイツ””の登場となります。

※3:被写界深度:ピントが合っているように見える範囲。絞りを絞るほど深くなる(≒見かけ上のピントが合っている範囲が広くなる)。

※4:絞りを絞りすぎると回折現象が発生し画質が極端に落ちます。(一般にはF8~F11くらいがレンズにとって一番画質の良いところになります)どのような感じで画質が落ちるかはこちらの記事を見ていただければわかるかと思います。超低速の流し撮りの場合はあまり画質を気にしませんが、画質がいいほうが幸せな場合が多いです。

5:シャッタースピードを落とせる魔法のアイテム。

ここまできてようやくNDフィルターの出番です。ここまで読んできた方であれば大丈夫かと思われますが、使用する目的は
1:絞りすぎずにシャッタースピードを落とす
2:より絞ってNDフィルターなしでは実現できなかった超低速シャッターを実現する
の2つになります。

1:絞りすぎずにシャッタースピードを落とす
ND4_8928
F8,ISO100,1/30sec+ND8
まずはこの写真から。1/30sec自体はNDフィルターなしでもF22くらいまで絞れば実現可能ですが、そのくらいまで絞ると回折の影響で像がぼやけてしまいます。

D72_6306
F5.6,ISO100,1/50sec+ND8
上の4のフォーミュラの作例と同じ場所で撮影した写真になりますが、こちらは絞りをF5.6まで開いています。同じ場所にも関わらず、フェンスの影響が小さくなっていることがわかりますね。これでNDフィルターがなかった場合はF16まで絞ることになりフェンスが写ります。かといってそれを嫌って絞りをF5.6にすると今度はシャッタースピードが1/400secになり、躍動感にかける写真になってしまいます。

2:さらにシャッタースピードを落とす
D72_9106
F16,ISO100,1/8sec+ND8
NDフィルターを使用したうえでさらに絞って撮影をするともっとシャッタースピードを落とすことができます。この写真もF40くらいまで絞れば実現可能かもしれませんが、使用しているレンズはF32までしか絞れないので実現することができません。

6:NDフィルターのデメリット

NDフィルターを使うことでフィルター無しでは実現のできなかった撮影をできることが実現できるようになりましたが、デメリットも当然あります。

1:AFが迷うことがある
カメラはレンズを通して入ってきた光をもとにAFによってピント合わせを行いますが、入ってくる光の量が少なくなればカメラも処理が難しくなります。(夜中にカメラのAFを使ってピントを合わせようとしてもなかなかピントが合わないのと似たような状態です)最近のデジタルカメラでは暗いところでもピントを合わせることができることをうたっている機種が多いですが、それでも通常時より条件が厳しいことは変わりありません。
もっとも、日中にレースが行われるので明るいことが多く、案外悩まされることは少ないですけどね。(暗くなったらNDフィルターを使わなくても流し撮りができますし)


2:色被りが発生することがある
簡単に言えば、フィルターの影響で思っていたのと違う色が出ることがあるということです。(色温度とか難しい話になるので興味のある方は探してみてください)

とりあえずは写真を見ていただいたほうが早いかな。
DSC_3732
まずはNDフィルター無し。概ね、見た通りの色が出ているかなと思います。

DSC_3872
続いてNDフィルターあり(ND8)。こちらはちょっと色が違います。色がくすんだようにも感じますね。

カメラ側が色温度(K:ケルビン)を自動的に決定するのですが、どちらもほぼ同じケルビン値だったのでフィルターの影響を受けていることがわかります。(作例はRAW現像時に若干修正を加えていますが)


3:ファインダーが暗くなる
NDフィルターによって撮影者も影響を受けます。レンズを通過した光を見ながら私たちは撮影しますが、通過する光の量が減れば当然ファインダーも暗くなります。ファインダーが暗くなればピントの山や構図をつかみにくくなるので撮影の難易度があがります。(私は見えにくいときはヘッドライトなどを目印に撮影しています)

ただ、3はミラーレスカメラの背面液晶やEVF(電子ビューファインダー)の場合は問題にならない場合が多いです。EVFはファインダーが暗ければ増感をして対応することができるのでNDフィルターをつけても快適に撮影することができます。(AF関連は同様に影響を受けます)


3つのデメリットはNDフィルターが濃ければ濃いほど強く出るので、持っているカメラでこの症状に悩まされる場合は一段明るいNDフィルターを選んだほうが無難です。(もしくはレンズをもっと明るいものにするか。投資金額がえらいことになるのでお勧めはしません)使用するレンズの望遠端のF値がF5.6ならND8かND4くらいが無難です。(それ以上暗いとピントが合わなかったりファインダーが見えにくくなったりする可能性が高いです)

7:NDフィルターとその作法

2のところでも触れましたが、ある程度までは流し撮りをするためにNDフィルターを使う必要はありません。なので、まずはNDフィルターを使わずに流し撮りの練習をするところから始めたほうが良いと思います。そして、慣れてきてもっとシャッタースピードを落としたい!という感じになってきたら初めてNDフィルターの出番だと思っていただいても大丈夫です。(実際、私もサーキットでの撮影を始めてからの約1年はNDフィルターを使用せずに撮影していました)

流し撮りをする場合はシャッタースピードを落とすので手振れ・被写体ブレの可能性が急速に増えます。それを減らすには
・カメラに搭載されている手振れ補正機能を活用する
もしくは
・一脚を用いて流し撮りをする(この場合は手振れ補正は切ったほうが良いです)
の二つになると思います。どちらも被写体ブレを防ぐことは難しいですが、手振れによる上下方向のブレを軽減することができるので使用したほうが撮影したすいと思います。特に、一脚は慣れてしまえばこれ無しでは流し撮りが無理と思えるほど効果てきめんなのでぜひ使っていただきたいアイテムですね。

DSC_4347.jpg
レンズの下側についている棒みたいなのが一脚です。手振れを防ぐ役割以外にも撮影中の高さを安定させたりレンズの重さを分散させたりできるので、撮影が楽になります。サーキットにいくとレンズをつけたまま担いでいる人を結構見かけると思います。

NDフィルターを使用して撮影する場合、露出の段の概念を理解していれば特に難なくカメラの設定をできると思いますが、段がよくわからない場合は
NDフィルターを装着する→シャッター優先オートで撮影したいシャッタースピードにする→コースに向けて1枚撮る→撮影結果のF値とISO感度を覚える→マニュアル露出に設定する→先ほどのF値とISO感度を入れる
という感じで撮影ができるようになると思います。天気は刻々と変わるので時々撮影結果を確認して暗い(明るい)ならF値を下げる(上げる)かISO感度を上げる(下げる)という風に調節をしていくとよいと思います。

8:おわりに

NDフィルターは流し撮りに必須なのではなく、流し撮りの幅を広げるためにあったほうが良いアイテムになります。いくらシャッタースピードを落とすことができても写真にターゲットが写っていなければ意味がありません。まずはシャッタースピードが速めでもいいので、しっかりとファインダー内にターゲットを入れ続けることができるようになることが大事だと思います。それができるようになったら、シャッタースピードを落として流し撮りのコツをつかみ、慣れてきたらNDフィルターを使ってさらに撮影の幅を広げていただきたいなと思います。

一回のレースで最低でも2000~2500枚程度は撮影しますが、セレクト作業ののちに残る写真は半分以下、さらに実際にブログ上で紹介される写真はさらにその20%にも満たないと思います。全体で見たら10%も紹介していないことになりますね。流し撮りはそのくらい打率が低いものになりがちなので、あきらめずにいっぱい撮っていっぱいコツをつかんでいくことが一番の上達の近道だと思います。


つたない文章でしたが、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。また、わかりにくいことなどがありましたら、随時コメント等をいただければ幸いです。(一脚の使い方については書けたら書きたいと思います。)


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